「今期は粗利が2,600万円出た」と聞けば順調に見えます。ところが決算書の当期純利益は170万円。この差がどこで生まれているのかを説明できるかどうかが、粗利と利益の違いを理解しているかの分かれ目です。建設業では現場が粗利を、経営者が利益を見ることが多く、二つの数字が別物だという認識がないと、社内の会話がかみ合いません。
この記事では、粗利(完成工事総利益)と利益の定義と計算方法、損益計算書に並ぶ5つの利益の関係、建設会社モデルでの計算例、そして小規模な建設会社ほど「粗利率は高いのに営業赤字」になりやすい理由を、業界データを引きながら整理しました。工事の粗利と決算の粗利がズレる原因や、粗利を上げる方法と利益を残す方法の違いにも触れています。
決算書の完成工事総利益・営業利益・当期純利益の3つを並べて、粗利から利益までの間で数字がどう削られているかを、この記事を片手に追ってみてください。
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粗利とは?建設業では「完成工事総利益」

粗利(あらり)とは、売上高から売上原価を差し引いた金額のことです。正式な会計用語では「売上総利益」といい、建設業の決算書では「完成工事総利益」という科目名で表示されます。
計算式はシンプルです。
- 粗利(完成工事総利益)= 完成工事高 − 完成工事原価
完成工事高は工事の売上、完成工事原価はその工事にかかった工事原価(材料費・労務費・外注費・経費)の合計です。たとえば請負金額1,000万円の工事で、材料費300万円・外注費400万円・現場の経費50万円がかかったなら、粗利は1,000万円 − 750万円 = 250万円になります。
粗利は「工事そのものでいくら稼げたか」を表す数字です。事務所の家賃や事務員の給与、社長の役員報酬といった、現場とは直接関係のない費用はまだ引かれていません。ここが、後述する営業利益や純利益との大きな違いです。
粗利を売上高で割った割合を粗利率(売上高総利益率)といい、工事の採算性を比べるときに使います。先ほどの例なら250万円 ÷ 1,000万円 = 25%です。粗利率の業種別の目安や改善策は、建設業の粗利率の目安でまとめています。
利益とは?損益計算書に並ぶ5つの利益

「利益」という言葉は日常的に使いますが、決算書(損益計算書)には5種類の利益が段階的に並んでいます。粗利はその最初の1つにすぎません。
| 段階 | 利益の名前 | 計算 | 何を表すか |
|---|---|---|---|
| 1 | 売上総利益(粗利) | 売上高 − 売上原価 | 工事そのものの儲け |
| 2 | 営業利益 | 粗利 − 販売費及び一般管理費 | 本業の儲け |
| 3 | 経常利益 | 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用 | 借入利息などを含めた平常時の儲け |
| 4 | 税引前当期純利益 | 経常利益 + 特別利益 − 特別損失 | 一時的な損益を含めた儲け |
| 5 | 当期純利益 | 税引前当期純利益 − 法人税等 | 最終的に会社に残る儲け |
建設業の損益計算書では、売上高は「完成工事高」、売上原価は「完成工事原価」、売上総利益は「完成工事総利益」と表示されます。兼業で不動産業などを営んでいれば「兼業事業売上高」が並びますが、仕組みは同じです。
5つの利益は、上から順に費用を差し引いていく「階段」の関係にあります。粗利が大きくても、販管費や借入利息、税金を引いた後にいくら残るかは別の話です。「粗利は出ているのにお金が残らない」という悩みの多くは、この階段のどこかで利益が削られていることが原因です。
販売費及び一般管理費とは
粗利から営業利益に下りるときに引かれるのが、販売費及び一般管理費(販管費)です。建設会社では、役員報酬、事務員の給与、事務所の家賃・光熱費、営業車両の費用、広告費、会計ソフトの利用料などが該当します。決算書では一般管理費として一括りにされることが多く、工事ごとには紐づかない「会社を回すための費用」です。
営業外損益と特別損益とは
営業外収益・費用は、本業以外で毎期発生する損益です。代表例は借入金の支払利息で、資金調達のために金融機関から運転資金を借りている会社では無視できない金額になります。受取利息や受取配当金は営業外収益です。
特別利益・特別損失は、その期にたまたま発生した損益です。重機や社用車を売却した益、災害による損失、固定資産の除却損などが入ります。毎期は起こらないため、会社の実力を見るときは経常利益までを見るのが一般的です。
粗利と利益の違いは「どこまで費用を引いたか」

ここまでを踏まえると、粗利と利益の違いは一言で整理できます。粗利は「工事原価だけを引いた利益」、営業利益や純利益は「そこからさらに会社の費用や利息・税金を引いた利益」です。どちらが正しいということではなく、見ている範囲が違います。
| 比較項目 | 粗利(売上総利益) | 営業利益 | 当期純利益 |
|---|---|---|---|
| 差し引く費用 | 工事原価のみ | 工事原価+販管費 | すべての費用・利息・税金 |
| 見える範囲 | 工事の採算 | 本業全体の採算 | 会社に最終的に残る額 |
| 誰が主に見るか | 現場監督・積算担当 | 経営者 | 経営者・金融機関・税務署 |
| 管理する単位 | 工事ごと | 会社全体(部門別も可) | 会社全体 |
建設業で粗利がとくに重視されるのは、工事ごとに直接計算できる利益だからです。営業利益や純利益は会社全体を集計しないと出せませんが、粗利は1件の工事が終わった時点で「この現場でいくら残ったか」がわかります。現場単位で赤字を見つけ、次の見積に活かすときの基準になるのは粗利です。
一方で、粗利だけを見て経営判断をしていると会社全体の姿を見誤ります。全工事の粗利を合計しても、そこから役員報酬や事務所経費を賄えなければ営業赤字です。粗利は「工事の成績」、営業利益以降は「会社の成績」と分けて捉えてください。
粗利と粗利益、売上総利益は同じもの?
「粗利」「粗利益」「売上総利益」「完成工事総利益」は、いずれも同じ金額を指します。会話や社内資料では粗利、決算書では売上総利益(建設業なら完成工事総利益)と使い分けられているだけです。なお、粗利率と混同されやすい「原価率」は、売上原価 ÷ 売上高で、粗利率と足すと100%になります。
粗利・営業利益・純利益の計算例(建設会社モデル)

数字で流れを追ってみましょう。従業員8名、年間の完成工事高1億円の建設会社を想定します。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 完成工事高 | 1億円 | |
| 完成工事原価 | 7,400万円 | 材料費2,000万・労務費1,800万・外注費3,000万・現場経費600万 |
| 完成工事総利益(粗利) | 2,600万円 | 1億円 − 7,400万円(粗利率26%) |
| 販売費及び一般管理費 | 2,300万円 | 役員報酬900万・事務員給与500万・家賃等300万・その他600万 |
| 営業利益 | 300万円 | 2,600万円 − 2,300万円(営業利益率3%) |
| 営業外費用(支払利息) | 60万円 | 借入金3,000万円×年利2% |
| 経常利益 | 240万円 | 300万円 − 60万円 |
| 特別損益 | 0円 | |
| 法人税等 | 約70万円 | 概算 |
| 当期純利益 | 約170万円 |
粗利は2,600万円あるのに、最終的に会社の手元に残る利益は170万円ほど。この差が販管費と利息と税金です。現場ごとの粗利率が26%出ていても、販管費が粗利の2,600万円を超えた瞬間に営業赤字に転落します。
逆に言えば、この会社が営業利益を600万円にしたいなら、選択肢は2つです。粗利を300万円増やす(完成工事高1億円のままなら粗利率を29%に上げる)か、販管費を300万円減らすか。どちらが現実的かは会社によりますが、粗利率を3ポイント上げるのは、見積の精度と原価管理の徹底で十分に狙える幅です。
粗利2,600万円から利益170万円までの階段を、決算が終わってから初めて眺めるのでは手を打つ時期を逃します。工事ごとの原価を入力するだけで工事別の粗利が集計され、会社全体の粗利合計まで月の途中で確認できるのが工事管理システムuconnectです(30日間無料・初期費用0円)。
建設業の粗利率と営業利益率の実態

自社の数字を評価するには、業界の水準を知っておく必要があります。一般財団法人建設業情報管理センターの「建設業の経営分析(令和6年度)」によると、調査対象の建設業全体の売上高総利益率(粗利率)は26.50%、売上高営業利益率は1.20%、売上高経常利益率は2.91%でした(出典:一般財団法人建設業情報管理センター「建設業の経営分析(令和6年度)」)。
注目したいのは、業界全体の平均値だけでなく、売上高の規模別に見たときの数字です。
| 売上高規模 | 売上高総利益率(粗利率) | 売上高営業利益率 |
|---|---|---|
| 5千万円未満 | 35.32% | ▲7.10% |
| 5千万円以上1億円未満 | 30.39% | ▲0.68% |
| 1億円以上2億円未満 | 27.30% | 1.81% |
| 2億円以上3億円未満 | 25.03% | 3.27% |
| 全体 | 26.50% | 1.20% |
(出典:同上)
小さい会社ほど粗利率は高いのに、営業利益率はマイナスという構図がはっきり出ています。売上高5千万円未満の層では粗利率35%を超えているにもかかわらず、営業利益率は▲7.10%です。粗利は稼げているのに、役員報酬や事務所経費といった販管費を売上規模で吸収しきれていないためです。
これは「粗利と利益の違い」がそのまま経営課題になっている例です。小規模な建設会社では、粗利率を上げる努力と同じくらい、「粗利の合計で販管費を賄えているか」を月次で確認してください。粗利率が高いからと安心していると、期末に営業赤字が判明します。
「工事の粗利」と「会社の利益」がズレる理由

現場では「この工事は粗利25%取れた」と話しているのに、決算書の粗利率はもっと低い。あるいは工事はすべて黒字なのに会社は赤字。こうしたズレは珍しくありません。原因は主に3つあります。
現場管理費・共通仮設費の扱い
工事原価には、材料費や外注費のように工事に直接紐づく費用だけでなく、現場管理費(現場監督の人件費・現場事務所の費用など)や共通仮設費も含まれます。ところが社内の粗利計算では、これらを工事に割り振らずに「会社の経費」として扱っているケースがよくあります。すると現場ごとの粗利は実際より高く見え、決算書の粗利と食い違います。
現場監督が複数の現場を掛け持ちしている場合、その人件費を各工事にどう配分するかがポイントです。工期や請負金額で按分するルールを決め、見積段階から現場管理費を原価に織り込んでおくと、工事の粗利と決算の粗利が近づきます。
原価を計上するタイミング(会計上の視点)
粗利は「いつ売上と原価を計上するか」で金額が動きます。工事完成基準を採用している会社では、工事が完成・引き渡しされるまでにかかった原価をいったん未成工事支出金という資産に計上し、完成した期に完成工事原価へ振り替えます。期をまたぐ工事では、材料をたくさん仕入れた期には粗利が減らず、完成した期にまとめて原価が乗ります。
このため、月次で「今月の粗利」を見るときは、完成した工事の粗利なのか、進行中の工事も含めた見込みの粗利なのかを区別しないと判断を誤ります。工事ごとに実行予算と実績原価を管理していれば、進行中の工事の粗利見込みも把握できます。
税金は粗利ではなく「所得」にかかる(税務上の視点)
「粗利が増えると税金も増える」と考えがちですが、法人税は粗利に直接かかるわけではありません。課税されるのは、益金から損金を差し引いた課税所得で、会計上の税引前当期純利益をベースに税務調整を加えた金額です。つまり、粗利がいくら大きくても、販管費や支払利息を差し引いた後の利益が小さければ、税負担も小さくなります。
裏を返せば、節税のために粗利を圧縮しようとする(工事原価を膨らませる)のは筋違いです。粗利は工事の採算を測る指標であり、税額を決めるのは最終段階の利益です。粗利は高く保ち、必要な経費は販管費など本来の区分で正しく計上します。この整理ができていると、現場と経理の会話がかみ合いやすくなります。
なお、税務上の具体的な取り扱いは会社ごとに異なるため、判断に迷う場合は顧問税理士に確認してください。
粗利を上げる方法と利益を残す方法

粗利と利益は段階が違うので、改善策も分けて考えると整理しやすくなります。
粗利を上げる:見積と原価管理
粗利は「請負金額 − 工事原価」なので、上げる方法は請負金額を適正にするか、原価を抑えるかの2つしかありません。
- 見積の精度を上げる:数量の拾い漏れや単価の勘違いは、そのまま粗利の目減りになります。過去工事の実績原価を見積に反映させ、実行予算を工事ごとに組んでから着工する
- 原価を実行予算と突き合わせる:月に1回は工事別の予算と実績を比べ、材料の使いすぎや外注費の追加を早めに見つける。工事が終わってから赤字に気づくのが最も痛い
- 追加工事を確実に請求する:現場の判断で無償対応した追加作業は、粗利をじわじわ削ります。追加・変更は書面で残し、請求につなげる
- 粗利率の低い工事の受注を見直す:すべての工事を同じ粗利率で受ける必要はありませんが、粗利率が一桁の工事が常態化しているなら、単価交渉か受注の見直しを検討する
利益を残す:販管費と資金の管理
粗利が確保できたら、次は販管費と営業外費用のコントロールです。
- 販管費の総額を粗利の合計と比べる:月次で「今月の粗利合計 − 販管費」がプラスかどうかを確認する。営業利益をこの1本の引き算で把握しておくと、期末の赤字を防げます
- 固定費の棚卸し:使っていないリース契約、重複しているソフト、惰性で続けている広告などを年1回見直す
- 借入の条件を見直す:支払利息は経常利益を直接削ります。金利の高い借入があれば借り換えを検討する
- 粗利率と売上規模のバランスを取る:前述のデータのとおり、小規模な会社は粗利率が高くても販管費を吸収しきれずに営業赤字になりがちです。粗利率を維持したまま受注量を増やす、あるいは販管費を売上規模に見合う水準に抑えるかを判断する
粗利の改善は現場と積算担当の仕事、利益の確保は経営者の仕事、と役割を分けて数字を見ると、社内で「誰が何を頑張るか」が明確になります。
粗利と利益に関するよくある質問
粗利と営業利益、どちらを重視すべき?
目的によります。工事ごとの採算を判断し、見積や原価管理を改善したいなら粗利です。会社全体が黒字か、役員報酬や人件費を賄えているかを判断するなら営業利益です。建設会社の日常管理では「工事は粗利、会社は営業利益」と分けて見るのが実務的です。
粗利率が高ければ会社は安泰?
そうとは限りません。前述の経営分析でも、売上高5千万円未満の建設業は粗利率35%超なのに営業利益率はマイナスでした。粗利率が高くても、粗利の絶対額が販管費に届かなければ赤字です。粗利率と一緒に、粗利の合計額と販管費の総額を必ず見てください。
粗利に法定福利費や現場監督の給与は含める?
工事原価に含めるのが原則です。現場作業員の労務費や法定福利費、現場監督の人件費(現場管理費)は、その工事のためにかかった費用なので完成工事原価に入り、粗利を計算する前に差し引かれます。一方、事務員や営業担当の給与は販管費です。社内の粗利計算でこの線引きが曖昧だと、決算書の粗利と合わなくなります。
個人事業主(一人親方)にも粗利と利益の区別は必要?
必要です。一人親方の場合、自分の労務費を原価に入れるかどうかで粗利が大きく変わります。自分の日当分を原価に入れずに粗利を計算していると、粗利率は高く見えても、実際には自分の給料を払ったら何も残っていない状態になりかねません。「自分の人工代を引いても粗利が残るか」で見ると、実態に近づきます。
粗利と利益の違いを社員にどう説明すればいい?
「粗利は現場で稼いだお金、利益はそこから会社の家賃や事務所の給料を払った後に残るお金」という説明が伝わりやすいです。現場の社員には「粗利を1%上げると、会社の営業利益がいくら増えるか」を具体的な金額で示すと、原価意識が高まります。前述のモデルなら、粗利率1%は100万円。営業利益300万円の会社にとって、100万円は3割増しに相当します。
工事別の粗利と会社の利益をリアルタイムで確認するには

ここまで見てきたように、粗利は工事ごとに、利益は会社全体で見る必要があります。ところがExcelで工事台帳を作っていると、工事別の粗利を出すだけでも月末にまとめて集計することになり、「粗利の合計で販管費を賄えているか」を月の途中で確認するのは現実的ではありません。
工事管理システム「uconnect」は、工事ごとの売上と原価を登録するだけで、工事別の粗利をリアルタイムに集計するクラウドサービスです。見積から実行予算を組み、日々の原価を入力していけば、進行中の工事も含めて「今この現場でいくら粗利が残っているか」が画面上で確認できます。部門別・担当者別の粗利分析にも対応しているので、会社全体の粗利合計と販管費を比べる材料もすぐにそろいます。
- 工事別の粗利がリアルタイムに集計され、赤字現場を早い段階で発見できる
- 実行予算と実績原価の差異を工事ごとに確認でき、見積精度の改善に使える
- 工事台帳が自動で作成され、決算時の完成工事原価の集計が楽になる
- 弥生会計・freee・マネーフォワードクラウドと連携でき、決算書の利益とのつながりを保てる
初期費用は無料、月額7,920円(税込)から利用でき、30日間の無料トライアルがあります。デジタル化・AI導入補助金2026にも対応しています。導入前に自社の業務フローとのマッチ率を判定できる適合性チェックも用意されているので、小規模な会社でも無理なく検討できます。
まとめ
粗利と利益の違いを整理します。
- 粗利(売上総利益・完成工事総利益)は「売上 − 工事原価」で、工事そのものの儲けを表す
- 利益には5段階あり、粗利から販管費を引いたものが営業利益、利息・特別損益・税金まで引いたものが当期純利益
- 違いは「どこまで費用を引いたか」。粗利は工事の成績、営業利益以降は会社の成績
- 建設業全体の粗利率は26.50%、営業利益率は1.20%。小規模な会社ほど粗利率は高いのに営業赤字になりやすい
- 工事の粗利と決算の粗利がズレる原因は、現場管理費の扱い・原価計上のタイミング・税務との混同
- 粗利は見積と原価管理で上げ、利益は販管費と借入の管理で残す
まずは直近の決算書を開き、完成工事総利益・営業利益・当期純利益の3つの数字を書き出してみてください。粗利から利益までの間で、いくらがどこに消えているかを一度見ておくだけで、次に手を打つべき場所が決まります。
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