施工図を提出したのに、監督職員から「これでは承諾できない」と戻ってくる。描き直しで工程が2日ずれ、その手間はどこにも計上されないまま工事が進む。施工図まわりのトラブルは、たいてい「誰が何をどこまでやる決まりなのか」が曖昧なまま走り出したところから始まります。
この記事では、施工図とは何かという定義から、誰が作るのか、設計図・竣工図との違い、承諾のフローと納まらないと分かったときの手順、そして作成費用が積算のどこに乗るのかまでを整理します。根拠はJISの製図用語、国土交通省の告示と公共建築工事標準仕様書、公共工事標準請負契約約款、共通費積算基準といった一次資料です。
条文や基準の番号まで示しているので、社内で施工図の取り決めを作るときのたたき台として、そのまま使える形にまとめました。
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施工図とは?現場で施工するために描き起こす図面のこと

施工図とは、設計図に描かれた内容を、現場で実際に手を動かせるところまで具体化した図面のことです。設計図をそのまま現場に持っていっても、鉄筋の重ね継手をどこで取るか、ダクトをどのルートで通すか、型枠をどう割り付けるかまでは決まりません。その隙間を埋めるために施工者側が描き起こすのが施工図です。
JISの定義は「現場施工を対象として描いた製作図」
日本産業規格には施工図の定義があります。JIS Z 8114:1999「製図−製図用語」の番号4009が施工図で、「現場施工を対象として描いた製作図(建築部門)」と定義されています(出典:日本規格協会「JIS Z 8114:1999 製図−製図用語」)。
同じ規格では4005が製作図、4010が詳細図、4003が実施設計図です。施工図は製作図の一種として位置づけられている、という整理になります。
なお4009の定義には「(建築部門)」と付記されており、建築の製図用語もこの共通規格に収められています。建築の規格として別にあるJIS A 0150「建築製図通則」のほうには、図面の種類を分類した規定がありません。線の太さの比率と、平面表示記号・材料構造表示記号の付表が中身です。
告示・民間約款・BIMガイドラインで定義が一致している
もう少し実務に近い文書でも、施工図の説明はきれいに揃っています。
| 文書 | 施工図の説明 |
|---|---|
| 令和6年国土交通省告示第8号 別添一 | 工事施工者が作成し、提出する施工図(躯体図、工作図、製作図等をいう。) |
| 民間(七会)連合協定 工事請負契約約款 第1条m | 設計図書等の定めにより受注者が作成した、この工事に必要な躯体図、工作図、製作図等 |
| 建築BIM推進会議ガイドライン 第3版(用語「施工図等」) | 設計図書の定めにより、工事施工者が作成する躯体図、工作図、製作図等 |
出典はそれぞれ、建築士法25条に基づく業務報酬基準の告示(出典:国土交通省「業務報酬基準ガイドライン(2024年 告示第8号版)」)、民間工事で広く使われる約款(出典:民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会「工事請負契約約款 新旧対照表(2025年12月改正)」)、そして国土交通省の建築BIM推進会議のガイドライン(出典:国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」)です。
性格の違う3つの文書が、「受注者が作る」「躯体図・工作図・製作図等を指す」という2点で一致しています。施工図の定義そのものは、実はぶれていません。
設計の意図を、手を動かせる情報に翻訳する
役割をひとことで言えば翻訳です。設計図のうち構造図には、柱の断面寸法や主筋・帯筋といった「何を作るか」が示されます。ただし、型枠をどう割り付けるか、打継ぎをどの高さに設けるか、標準図の範囲内で継手をどの位置に取るか、スリーブと他工種の取合いをどう解くかまでは示されません。ここを決めて図面にするのが躯体図です。
公共建築工事標準仕様書(建築工事編)の6.8.3(1)には、型枠は施工図等に従って加工し組み立てる、と書かれています。施工図がなければ、型枠の加工にも入れないわけです。
似た書類に施工計画書がありますが、こちらは「どう進めるか」を文章と手順で示すもので、役割が違います。詳しくは施工計画書の記事で整理しています。
施工図は誰が作るのか|契約書と告示から読み解く

「施工図は施工者が描くもの」とよく言われます。ただ契約書を読むと、話はもう少し立体的です。
契約上は、発注者が交付するルートもある
公共工事標準請負契約約款の第9条第2項第2号は、監督員の権限として「詳細図等の作成及び交付又は受注者が作成した詳細図等の承諾」を挙げています(出典:国土交通省「公共工事標準請負契約約款」)。
「作成して交付する」か「受注者が作ったものを承諾する」か。約款は最初から両方のルートを想定して書かれています。つまり誰が描くかは、契約でどちらを選んだかの問題です。
一方で同約款の第1条第3項は、仮設・施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段は、約款及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、受注者がその責任において定めると定めています。手段を決める責任は受注者側にある、という原則です。
公共建築工事では、受注者の義務として定められている
官庁営繕の建築工事では、そのうちの一方が仕様書ではっきり選ばれています。公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版の1.2.3「施工図等」です(出典:国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」)。
- 施工図等を工事の施工に先立ち作成し、監督職員の承諾を受ける(ただし、あらかじめ監督職員の承諾を受けた場合は、この限りでない)
- 施工図等の作成に当たり、関連工事等との納まり等について、当該工事関係者と調整のうえ、十分検討する
- 変更するときは監督職員に報告するとともに、適切な措置を講じ、監督職員の承諾を受ける
作るのは受注者、承諾するのが監督職員。この現場では約款の2つのルートのうち、後者が採用されているわけです。
設計者側の標準業務は「検討して報告する」まで
では設計者側は施工図に対して何をするのか。建築士法25条に基づく業務報酬基準の告示、その別添一「工事監理に関する標準業務」(3)(i)にこう書かれています。
> 設計図書の定めにより、工事施工者が作成し、提出する施工図(躯体図、工作図、製作図等をいう。)…が設計図書の内容に適合しているかについて検討し、建築主に報告する。
この告示全体を通して「施工図」という語は3回しか出てきません。しかもすべて検討・報告・確認の文脈です。設計者側の標準業務として、施工図を作図する業務は挙げられていません。
建築士でないと描けないのか
現場からよく出る質問です。ここは正直に書きます。建築士法上の設計の独占業務と施工図の関係を正面から定めた条文は見当たらず、どこまでが建築士でなければできない行為なのか、公開されている情報だけでは線引きがはっきりしません。断定している解説を見かけたら、根拠条文を確認したほうがよい領域です。
確実に言えることは2つあります。ひとつは、上で見たとおり設計者側の標準業務が検討・報告までであること。もうひとつは、建設業法第26条の4第1項が主任技術者・監理技術者の職務として「施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理」を挙げていることです。施工の段取りを図面に落とす作業は、施工者側の技術上の管理の延長にあります。
実務では作図を外部に委託する会社も多く、施工図の作成を専門に請け負う事業者もいます。外注は妨げられませんが、監督職員に承諾を求めるのも、設計図書と食い違ったときに責任を負うのも受注者です。誰が鉛筆を持つかと、誰が責任を負うかは別の話になります。施工者側の業務全体の位置づけは施工管理とはの記事にまとめています。
施工図と設計図・竣工図の違い|契約上の位置づけで整理する

3つの図面の違いは、契約上の扱いから見ると一番はっきりします。まず表で全体像を押さえます。
| 項目 | 設計図(設計図書) | 施工図 | 竣工図(完成図) |
|---|---|---|---|
| 作る人 | 設計者 | 受注者(施工者) | 受注者(元請) |
| 契約上の扱い | 契約図書そのもの | 工事関係図書 | 引き渡し時の提出図書 |
| 作る時期 | 着工前 | 施工に先立って | 工事完了時 |
| 何のため | 何を作るかを定める | どう作るかを決める | どう建ったかを記録する |
| 変えるとき | 契約変更の手続 | 報告して再度承諾 | 現物に合わせて修正 |
設計図書は契約で限定列挙されている
標準仕様書1.1.1(2)の設計図書は、別冊の図面、標準仕様書、特記仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書の5つです。公共工事標準請負契約約款第1条第1項も、別冊の図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書としています。
どちらも限定列挙で、施工図は入っていません。承諾をもらった施工図であっても、契約上の設計図書に格上げされるわけではない、ということです。
ひとつ注意があります。建築士法2条6項にも「設計図書」の定義がありますが、あちらは建築物の建築工事の実施のために必要な図面及び仕様書という機能的な定義で、契約書の限定列挙とは別の概念です。契約側のリストを持ち出して建築士法の話を論じることはできません。どちらの意味で使っているかを、社内でも区別しておくと混乱しません。
施工図は「工事関係図書」に分類される
では施工図はどこに入るのか。標準仕様書1.1.2(ソ)の「工事関係図書」です。実施工程表、施工計画書、施工図等、工事写真などがここに並びます。設計図書とは別のカテゴリーが用意されています。
分類が違うと、扱いも変わります。設計図書に誤りや食い違いがあれば約款第18条の手続で工期や請負代金額の変更につながりますが、施工図を描き直しただけでは契約金額は自動的には動きません。この差は次の章で詳しく見ます。
なお1.5.1(1)は、施工は設計図書、実施工程表、施工計画書、施工図等に基づいて行う、と定めています。契約図書ではないけれど、施工の根拠になる図面ではある、という位置づけです。
完成図も限定列挙されている
竣工図も同じように範囲が決まっています。標準仕様書1.7.2は、完成図の種類及び記入内容は特記によるとしたうえで、特記がなければ表1.7.1によるとしています。表1.7.1が挙げるのは、配置図及び案内図、各階平面図、各立面図、断面図、仕上表の5種類です。
施工図を束ねて完成図の代わりにする、という運用は想定されていません。竣工図の作り方や保存義務は竣工図とはの記事で詳しく解説しています。
施工図の種類|「決まった分類」は実は存在しない

先に結論を書きます。施工図の種類を公的に定めた分類は見当たりません。解説記事や書籍が挙げる分類は、実務の慣行を整理したものです。この前提を知っておくと、社内で言葉が食い違ったときに原因を追いやすくなります。
標準仕様書に出てくるのは4語だけ
公共建築工事標準仕様書(建築工事編)1.1.2(タ)の「施工図等」の定義は、施工図、現寸図、工作図、製作図その他これらに類するもので、契約書に基づく工事の施工のための詳細図等、というものです。
出てくる図面名はこの4語だけ。建築工事編の本文を通しで確認すると、躯体図、建具表、天井伏図、平面詳細図、断面詳細図、伏図といった語は1件も使われていません。
建築・電気・機械で「施工図等」の中身が違う
同じ現場でも、編が変われば言葉の範囲が変わります。
| 標準仕様書の編 | 「施工図等」に含まれるもの |
|---|---|
| 建築工事編 | 施工図、現寸図、工作図、製作図 その他これらに類するもの |
| 電気設備工事編 | 施工図、製作図 その他これらに類するもの |
| 機械設備工事編 | 施工図、製作図 その他これらに類するもの |
現寸図と工作図が入るのは建築工事編だけです。設備側は施工図と製作図の2つ。設備業者と打合せをするときは、どの編の定義で話しているかを揃えておくと行き違いが減ります。
よく施工図名として挙がる図面は、実は設計図書の名称
天井伏図、建具表、矩計図、平面詳細図。施工図の種類として紹介されることが多い名前ですが、これらは建築工事設計図書作成基準の4.2が、実施設計の設計図書の名称と尺度として定めているものです。矩計図は1/30又は1/50、平面・断面・部分詳細図は1/30又は1/50、天井伏図は1/100又は1/200、建具表は1/50又は1/100と決められています(出典:国土交通省「建築工事設計図書作成基準(令和2年改定)」)。
実務では、設計図書と同じ名前の図面を施工者が改めて描き起こすことがあり、その慣行が「施工図の種類」として語られています。名前が同じでも、設計図書としての図面なのか、施工者が描いた施工図なのかで、承諾の要否も責任の所在も変わります。社内では図面番号の付け方で区別できるようにしておくと安全です。
「総合図」は標準仕様書の本文には出てこない
設備の位置を意匠図に重ねて調整する総合図は、実務で広く使われています。ただし公共建築工事標準仕様書の建築・電気・機械の3編とも、本文に「総合図」という語は出てきません。
総合図を作るかどうか、誰が取りまとめるかは、標準仕様書に根拠を求めるのではなく、特記仕様書や着工前の打合せで決めておく事項になります。ここを曖昧にしたまま進むと、設備の取合い調整が誰の仕事なのか宙に浮きます。
施工図の承諾フロー|「提出」ではなく「承諾」であることの重み

工事関係図書は、書類によって手続が違います。標準仕様書の並びで見比べると差がはっきりします。
| 図書 | 条項 | 手続 | 変更するとき |
|---|---|---|---|
| 実施工程表 | 1.2.1 | 承諾 | 条件変更等によるものは再度承諾/その他は報告 |
| 施工計画書 | 1.2.2 | 提出(品質計画の部分は承諾) | 報告する |
| 施工図等 | 1.2.3 | 承諾 | 報告のうえ再度承諾 |
「提出」と「承諾」は違う
提出は出せば足ります。承諾は相手の了解が要ります。標準仕様書1.1.2(ウ)は「監督職員の承諾」を、受注者が書面で申し出た事項について、監督職員が書面をもって了解することと定義しています。
口頭の「それでいいよ」は承諾ではありません。約款第9条第4項も、監督員の指示や承諾等は原則として書面によるとしています。現場で口頭確認を取ったなら、書面に落として承諾をもらうところまでが一連の手続です。
実務でよく効くのは、承諾までのリードタイムを最初から工程に組み込んでおくことです。施工図を出してから承諾が返るまでの日数は現場ごとに違いますが、これを見込まずに材料の発注日を決めると、承諾待ちで手が止まります。工程表そのものの作り方は工程表とはの記事で解説しています。
あわせて1.2.3(2)の「関連工事等との納まり等について、当該工事関係者と調整のうえ、十分検討する」を先に済ませておくと、承諾のやり直しが減ります。承諾を出す側から見れば、他工種との取合いが詰まっていない図面は判断できません。
変更するたびに承諾を取り直す
見落としやすいのが1.2.3(3)です。施工図等を変更するときは、報告したうえで再度承諾を受ける必要があります。施工計画書が変更時は報告で足りるのと対照的です。
現場では「軽微な変更だから」と赤字で修正したまま進めがちですが、施工図に関してはその処理が仕様書上は認められていません。改訂履歴を残し、改訂版で承諾を取り直す運用に統一しておくのが安全です。
承諾をもらっても免責にはならない
ここが最も誤解されやすいところです。約款第17条の改造請求は、工事の施工部分が設計図書に適合しない場合に監督員が改造を請求できるという条項です。判定の基準は設計図書であって、承諾済みの施工図ではありません。設計図書に適合しないと認められる相当の理由があるときは施工部分を最小限度破壊して検査することもでき、その検査及び復旧に直接要する費用は同条第4項により受注者の負担とされています。
承諾は「設計図書との整合を発注者側も確認した」という手続であって、食い違いがあったときの責任を消してくれるものではないわけです。施工図が設計図書と違うと気づいたら、承諾済みであっても一度手を止める。この判断が、後の手戻り費用を左右します。
承諾のやり直しや納まりの調整に費やした時間は、見積の段階では見込みきれません。工事ごとに実行予算と実際の原価を突き合わせ、粗利がどこまで残っているかをその場で確認できるのが工事管理システムuconnectです(30日間無料・初期費用0円)。
施工図で納まらないと分かったときの手順|黙って描き直すと費用は取れない

設備の施工図を描いていて、梁の下端と天井内のダクトルートが40mmぶつかることに気づいた。設計図どおりには納まらない。よくある場面です。
このとき現場でありがちなのが、「ダクトを振って逃がしておきました」と黙って処理してしまう対応です。工事は進みますが、追加でかかった手間と材料は、どこにも計上されないまま消えます。手順を踏むかどうかで、この後の請求できる/できないが分かれます。
まず監督職員と協議する
標準仕様書1.1.8「疑義に対する協議等」(1)は、設計図書に定められた内容に疑義が生じた場合、または現場の納まり・取合い等の関係で設計図書によることが困難もしくは不都合が生じた場合は、監督職員と協議すると定めています。
図面を描いている段階で気づけたなら、そこが協議のタイミングです。施工が進んでからでは、選べる解決策そのものが減ります。
設計図書に食い違いがあれば「通知して確認を請求する」
協議より一段強い手続が約款第18条の条件変更等です。第1項は、図面と仕様書の食い違い、設計図書の誤謬または脱漏、設計図書の表示が明確でないこと、施工条件と実際の現場の相違などを発見したときは、直ちにその旨を監督員に通知し、その確認を請求しなければならないとしています。
第4項で訂正または変更が行われ、第5項で必要があると認められるときに工期や請負代金額の変更、費用の負担が決まる流れです。請求のルートは「発見→通知→確認請求」から始まります。この起点を踏まずに施工を進めてしまうと、後から費用の話をしても議論の土台がありません。
建設業法第19条第1項第6号も、設計変更に伴う工期の変更や請負代金額の変更の方法を、契約書の法定記載事項としています。契約書のどこにその定めがあるかは、着工前に一度目を通しておく価値があります。工事請負契約書の記事で記載事項を整理しています。
変更に至らなかった事項も記録に残す
1.1.8(3)には、訂正または変更に至らない事項について記録を整備するという定めがあります。協議したけれど変更にはならなかった、という結末も記録の対象です。
「相談したが現状のままとなった」という経緯が残っていれば、次に同じ取合いが出たときに一から議論せずに済みます。竣工後に施主から問い合わせが来たときの説明材料にもなります。地味ですが、仕様書に明記された義務です。
照査の範囲を超える作図の扱い(土木の運用)
費用負担の考え方として参考になるのが、関東地方整備局の「工事請負契約における設計変更ガイドライン(総合版)」令和7年3月です。設計図書の照査は受注者の自己負担であり、説明資料(現地地形図、設計図との対比図、取合い図、施工図等)の作成も受注者負担としつつ、照査の範囲を超える図面の再作成等は発注者の負担としています(出典:関東地方整備局「工事請負契約における設計変更ガイドライン(総合版)」)。
ただしこれは土木工事のガイドラインで、建築工事にそのまま当てはまるものではありません。「照査」という語は、公共建築工事標準仕様書(建築工事編)の本文には出てきません。あくまで、どこまでが受注者の持ち出しでどこからが発注者負担かを整理するときの考え方の参考として読むのが適切です。
施工図の作成費用はどこに乗るのか|見えにくい作図工数の話

施工図を描く時間は、どこでお金になっているのか。積算基準を開くと、答えは載っています。ただしその載り方に、実務上のやっかいさがあります。
積算上は現場管理費の「施工図等作成費」
公共建築工事共通費積算基準(令和8年改定)の表-2は、現場管理費の費目のひとつとして「施工図等作成費:施工図・完成図等の作成に要する費用」を挙げています(出典:国土交通省「公共建築工事共通費積算基準」)。
共通仮設費(表-1)ではなく現場管理費だという点が要注意です。費目の区分を間違えると、社内の集計と公共工事の積算がずれます。それぞれの中身は共通仮設費とはと現場管理費とはの記事で解説しています。
外注に出しても「従業員給料手当」ではない
同じ表-2の「従業員給料手当」の定義には、外注人件費(「施工図等作成費」を除く。)という括弧書きが入っています。作図を外部に委託した費用は、外注人件費ではなく施工図等作成費として扱う、という明示的な切り分けです。
自社の原価科目もこの区分に合わせておくと、公共工事の積算書と自社の工事台帳を同じ言葉で並べられます。作図の外注費が「その他外注費」に紛れている会社は、ここだけでも分けておく価値があります。
現場管理費率の式に、作図の手間は入っていない
そして本題です。現場管理費は率で算出されます。新営建築工事の現場管理費率は別表-8で、次の式が示されています。
Jo = Exp(5.899 − 0.447 × logeNp + 0.831 × logeT)
Npは純工事費(千円)、Tは工期(か月)です(Npは10,000千円以上5,000,000千円以下で用い、この範囲を外れる場合は現場管理費を別途定めることができるとされています)。改修工事は別表-9に別の式があります。
見てのとおり、変数は純工事費と工期の2つだけです。施工図の枚数も、承諾のやり直しの回数も、取合い調整に費やした時間も、式のどこにも入っていません。図面が20枚の現場でも80枚の現場でも、純工事費と工期が同じなら現場管理費率は同じ値になります。
つまり作図に想定以上の手間がかかっても、その分は率の中に吸収されて外からは見えません。増えた工数は、放っておけば原価のどこにも現れない持ち出しになります。
だから作図工数は自社で把握するしかない
積算が拾ってくれない以上、自社で数えるしかありません。次の4つを工事ごとにやっておくと、作図の負荷が見えるようになります。
- 施工図の作成と承諾を、工程表に1つの作業として載せる(承諾待ちの日数も含める)
- 外注した作図費は工事ごとに紐づける(科目は施工図等作成費に寄せる)
- 社内で描いた分の時間も、工事ごとにざっくりでよいので残す
- 完成後に、その工事の粗利と作図にかかった手間を並べて見る
4つ目まで到達している会社は多くありません。ただ、ここまで並べて初めて「あの用途の建物は作図が重い」「あの設計事務所の案件は承諾のやり直しが多い」といった傾向が数字で見えてきます。原価の全体像は工事原価とは、積算の考え方は積算とはの記事にまとめています。
施工図とBIM|令和8年4月に始まった図面審査で何が変わるか

「BIMで建築確認が出せるようになったらしいが、施工図はどうなるのか」。ここ最近増えている質問です。順に整理します。
BIM図面審査は義務ではなく、申請者の選択
令和8年4月1日から、BIMを用いた図面審査の運用が始まりました。根拠は建築基準法施行規則の一部を改正する省令(令和8年国土交通省令第22号)と、確認審査等に関する指針等の一部を改正する告示(令和8年国土交通省告示第438号)で、いずれも令和8年3月31日公布・4月1日施行です。規則には「建築物等情報モデル」という定義が新設されました。
押さえておきたいのは、これが義務ではなく申請者が選べる手続だという点です。従来どおりの図面で確認申請を出すこともできます。令和11年春には、図面ではなくBIMデータそのものを審査する「BIMデータ審査」の開始が目標に置かれています。
誓約するのは設計者。施工者側の手続がすぐ変わるわけではない
BIMデータから図書を書き出し、入出力基準に従って作成したことを誓約書で示すのは設計者です(確認申請書そのものの提出は、従来どおり申請者が行います)。施工者側の手続がこの改正で直接変わることはありません。ただ、設計側がBIMで進める現場が増えれば、施工図の元になるデータの受け渡し方は変わっていきます。2次元のPDFで受け取るのか、モデルごと受け取るのかで、施工図に入るまでの段取りが違ってきます。
なお、BIM/CIMの原則適用は国土交通省の直轄土木工事を対象とした取り組みで、建築はその原則適用の対象範囲には入っていません。官庁営繕の建築工事については「官庁営繕事業におけるBIM活用ガイドライン」が別に整備されています(最終改定 令和8年3月31日)。土木の話と建築の話が混ざった記事も見かけるので、根拠資料がどちらのものかは確認したほうがよい部分です。
補助を使ってBIMを導入するなら
費用面では、令和8年度の建築GX・DX推進事業があります。当初予算73億円、BIM活用型の補助率は1/2、代表事業者登録の応募は令和8年4月7日から令和8年12月末までです。補助要件には「元請事業者等は、下請事業者等による建築BIMの導入を支援すること」が含まれており、元請が下請を巻き込む形が想定されています。
ただし対象には条件があります。BIMモデラーの人件費のうち導入初期のBIMモデル作成に係る配置費用は、元請事業者等のうち従業員が1,000人を超える事業者と、本事業を最初に活用した年度から起算して4年度目以降となる事業者が対象外です。以前あった建築BIM加速化事業は令和6年度で終了しているため、資料を探すときは名称に注意してください。
従業員数名から数十名の会社が現実的に始めるなら、いきなり全社BIMではなく、施工図の受け渡しと承諾のやり取りをデータで回すところからで十分です。デジタル化の進め方は建設業DXとはの記事で段階を追って解説しています。
積算面でも受け皿はあります。共通費積算基準の表-1「情報システム費」の定義には、情報共有、遠隔臨場と並んで「BIM」が明記されています。公共工事では、費用として計上する道筋自体は用意されているということです。
作図にかかった費用を工事ごとの原価として残すには

現場管理費率の式に作図の手間が入っていない以上、施工図にかけた費用が工事の採算にどう効いたのかは、自社の原価データからしか読み取れません。作図を外注した費用が「その他外注費」に紛れたまま、工事ごとの粗利とも結びついていない。この状態では、作図が重かった工事とそうでない工事の差が、決算を締めるまで誰にも見えません。
工事管理システム「uconnect」は、見積から実行予算、原価の集計、工事ごとの粗利までを1つの画面でつなぐクラウドサービスです。作図の外注費も工事の原価として登録すれば、他の外注費や材料費と同じ台帳に並び、その工事にいくら粗利が残ったのかをその場で確認できます。
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自社の業務フローに合うかどうかは、公式サイトの導入適合性チェックで事前に判定できます。
施工図に関するよくある質問
施工図は必ず作らなければいけませんか
公共建築工事標準仕様書が適用される工事では、1.2.3(1)で、工事の施工に先立つ作成と監督職員の承諾が求められます(あらかじめ監督職員の承諾を受けた場合は、この限りではありません)。民間工事は契約書と設計図書の定めによりますが、民間(七会)連合協定の約款も施工図を定義したうえで、承認された施工図を工事用図書に含めています。実務としては、型枠の加工も鉄骨の製作も施工図なしには始まりません。
施工図の書き方に決まったルールはありますか
施工図の書式そのものを定めた公的な基準はありません。建築の製図全般については、JIS A 0150「建築製図通則」が線の太さの比を1:2:4とするなど作図の作法を定めていますが、施工図に限った規定ではありません。
実務で判断の基準になるのは、標準仕様書1.2.3(2)の「関連工事等との納まり等について、当該工事関係者と調整のうえ、十分検討する」を満たせているかどうかです。書式を整えることより、その図面が設計図書のどの部分を具体化したものかを後から追えるようにしておくほうが、承諾のやり取りでは効いてきます。
施工図と施工計画書はどう違いますか
施工図は「どう作るか」を寸法と納まりで示す図面、施工計画書は「どう進めるか」を文章と手順で示す文書です。標準仕様書でも1.2.2と1.2.3で別々に扱われ、手続も違います(施工計画書は提出、施工図等は承諾)。
承諾をもらった施工図どおりに作れば問題ありませんか
いいえ。約款第17条の改造請求の判定基準は設計図書への適合です。承諾は、設計図書との整合を発注者側も確認したという手続にとどまります。施工図と設計図書の食い違いに気づいたら、承諾済みでも協議に戻すのが正しい対応です。
施工図は何年保存すればよいですか
建設業法第40条の3に基づく「営業に関する図書」として引渡しから10年間の保存が求められる(建設業法施行規則第28条第2項)のは、完成図、発注者との打合せ記録、施工体系図などで(同規則第26条第5項)、施工図そのものの保存年数を定めた規定は見当たりません。ただし改修や不具合対応の場面では、施工図が現物に最も近い記録になることが少なくありません。社内では完成図とセットで残す運用が現実的です。
施工図の作成を外注しても問題ありませんか
約款第1条第3項が、工事目的物を完成するために必要な一切の手段は、約款及び設計図書に特別の定めがある場合を除き受注者がその責任において定めるとしており、外注そのものは妨げられません。ただし監督職員に承諾を求めるのも、設計図書と食い違ったときに責任を負うのも受注者です。外注費は積算上、施工図等作成費として整理します。
総合図は施工図に含まれますか
公共建築工事標準仕様書の建築・電気・機械の各編の本文には「総合図」という語が出てきません。作るかどうか、誰が取りまとめるかは、特記仕様書や着工前の打合せで決めることになります。
まとめ
施工図について、一次資料から確認できることを整理しました。
- 施工図はJIS Z 8114で「現場施工を対象として描いた製作図」と定義され、告示・民間約款・BIMガイドラインでも「受注者が作成する躯体図・工作図・製作図等」で一致している
- 契約上は発注者が詳細図等を交付するルートもあるが(約款第9条第2項第2号)、公共建築工事では標準仕様書1.2.3(1)により受注者が作成して承諾を受ける
- 設計図書は契約で限定列挙されており、施工図は「工事関係図書」に分類される。完成図の種類も、特記がなければ表1.7.1の5種類に限られる
- 施工図の種類を定めた公的な分類はない。標準仕様書に出てくるのは施工図・現寸図・工作図・製作図の4語だけで、総合図は本文に登場しない
- 施工図等は提出ではなく承諾。変更のたびに再承諾が必要で、承諾を得ても設計図書との不適合は免責されない(約款第17条)
- 納まらないと分かったら、1.1.8の協議と約款第18条の通知・確認請求から入る。変更に至らなかった事項も記録を整備する義務がある
- 積算上は現場管理費の「施工図等作成費」だが、現場管理費率の式の変数は純工事費と工期だけで、作図の手間は反映されない
最後の項目が、施工図をめぐる実務のいちばん厄介なところです。積算のしくみが作図工数を拾ってくれない以上、どの工事で作図が重くなったのかは自社で数えるしかありません。
そしてもうひとつ、1.1.8(3)の「訂正または変更に至らない事項について記録を整備する」も忘れずに。協議したが変更にならなかった、という経緯こそ、次の現場で効いてきます。図面と記録の両方が残っている会社は、同じ取合いで二度悩みません。
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