資金繰り表を使いこなせ!ベーシックな資金繰り表の作り方

「事業経営は、どんなに赤字が続いても資金が回っている限り、潰れることはありません。逆にどんなに黒字が続いていても資金が回らなくなってしまうと潰れてしまいます。」

「経営とは、お金を使うコト」、「事業とは、お金を儲けるコト」だとすれば、「資金繰り表」を作成し、適時適正な資金管理をすることが不可欠です。「資金繰り表」はMUST―ITEMです。

資金繰り表の重要性や作り方等について考えてみます。

中小企業金融の現場で見えてきた課題

小規模事業者・中小企業向け金融の現場で、30数年間金融機関の立場として金融支援、具体的には事業資金融資や企業再生・債権回収といった業務に携わり、その後、中小企業の財務の責任者として、財務体質改善に向け、金融機関と金融支援に関する交渉や経費削減等による収益構造の見直しに関わってきました。

中小企業金融の現場で40年近く過ごした体験から、次のような疑問や課題が見えてきたのです。

「中小企業の経営環境は決して恵まれてはいない。過半数の企業が赤字に悩まされている。赤字に悩まされている最大の要因は「財務」の専門家がいないことではないか。赤字企業の中には、意図して赤字を出している企業も含まれるかもしれないが、一方で、唯一無二の経営資源を持っているにも拘らず、赤字に苦しんでいる企業も存在する。「財務」という切り口でアプローチすれば解決の糸口が見つかるのではないか。」

そこで、強い組織に変態させるために中小企業の社長や財務担当者に「気づき」を与えることができたらと思い、「成功体験」や「しくじり体験」を紹介させていただくことにしました。

資金管理の重要性

月末資金が足りない

「今月末の手形が落ちない。月末までになんとか資金を融資してほしい。」と中小企業の社長から緊急融資を依頼されて慌てた経験が金融機関の融資担当者なら少なくとも一度や二度はあるに違いありません。

金融機関の担当者としては、急にそんなこと言われても、とても対応できないというのが本音です。「いったいどんな資金管理をしているのか?もっと余裕をもって相談してくれたら。」と。

支援はしたいけれど、稟議書を作成し、決裁者の決裁を受けない限り、融資実行に漕ぎつけることができませんから、稟議書作成に十分な時間がとれない中どうしたものかと相談を受けた担当者は途方に暮れてしまいます。

また、そういう企業は、稟議書を作成するための会計資料が十分ではなく、資料確認、資料作成にも時間を要します。誤解を恐れずに申しあげると、正直、担当者泣かせの「大迷惑な企業」なのです。

それでも、例えば期日に手形を落せないと「不渡り」を出すことになります。「不渡り」を出してしまうと信用取引が難しくなり、最終的には倒産につながる可能性があります。金融機関の担当者もそれだけは阻止しなければならないので懸命に手を尽くします。

既存借入金の返済ができない

一方、既存の借入金について、「約定通りの返済ができないので、条件変更(リスケジュール)をして欲しい。」と突然に言ってくる中小企業の社長や経理担当者も少なくありません。相談に来た時点で、ほぼ資金は底を尽き、手遅れ状態に陥っている企業がほとんどです。

中小企業の資金繰りは金融機関頼みの側面が大きい

金融機関がうまく対応してくれないと資金が回らなくなり、事業継続が難しくなる状況に陥ってしまいます。つまり、資金管理が機能していないと資金繰りが不安定になり、常に資金のことを気にしなくてはならない「頭の痛い経営」を強いられることになります。
 

資金管理が最も重要(利益と資金収支の関係)

冒頭に記述したとおり、事業活動を継続していくうえでは、損益管理も必要ですが、資金管理が最も重要です。

中小企業の社長は、先頭に立って営業活動もしなければなりません。人事・労務、経理・会計・財務等々、いわゆるバックヤードといわれる経営管理部門にも目配りをする必要もあります。多忙な社長の立場を考えると、上述したような資金繰りにあくせくする状況に陥ることも仕方のないことなのかもしれません。

・・・だとすれば、どうすれば資金繰りに気を使わなくて済むのか。資金手当てをタイムリーに行えるのかということを考えることが必要になります。

毎月報告される(月次管理ができていない中小企業も多いかもしれませんが、)合計残高試算表(貸借対照表と損益計算書)に目を通す社長はいても資金繰り(資金管理)がどうなっているかまで確認する社長は少ないのではないでしょうか?

「当社は利益を出しているにも拘らず、手元の資金(お金)が不足している・・・何故?」という疑問を抱く社長も多いと思われます。

貸借対照表をみれば資金の調達と資金の運用の状況を把握することはできます。一方、損益計算書をいくら眺めても資金の動きを把握することはできません。損益計算書は、売上、売上原価、経費、損益を把握するための資料ですから、資金(繰)管理を行うためには、資金繰りを管理するツールを用いることが必要です。そのツールの1つが「資金繰り表」です。

資金繰り表は資金管理の MUST ITEM

資金繰り表とは、「企業(会社)の資金の出と入りを記した表」のことで、資金繰りの状態(お金の動き)を細かく把握することができます。資金繰り表には、「資金繰り実績表」と「資金繰り予定表」の2つがあります。過去の資金繰り実績を示す表が「資金繰り実績表」であり、将来の資金繰りの状況を示す表が「資金繰り予定表」です。資金繰り表は、それぞれの企業の取引実態に合わせて、「日次」、「旬次」、「月次」等の単位で作成します。

ベーシックな資金繰り表を作成する際に、収支は「経常収支」「基幹収支」「財務収支」の3つに分類して作成することをお勧めします。まず、それぞれの意味を説明します。

経常収支

経常収支は、商品の販売やサービスの提供等による収入と仕入代金や人件費、諸経費等の支払による支出、企業が日常の事業活動(本業)により発生したお金の出と入りのことを言います。これをみることで企業の毎月の本業にかかるキャッシュフローが把握できます。

【把握するべきこと】
①売上代金等の債権の回収状況・回収予定
②売上代金回収高と売上高のバランスの確認
③買掛金等の債務の支払状況・支払予定

経常収入の増減を把握し、その変動が、①売上高の推移に起因しているのか、②売掛金等の回収に問題があるのか等、原因を確認し、対策する必要があります。

経常支出の増減も同様に把握し、その変動が、①原価率の変動に起因しているのか、②固定費の増加に起因しているのか、③在庫は適正なのか(過剰仕入)等、原因を確認し、対策する必要があります。

基幹収支(設備収支や投資収支ともいう)

基幹収支は、設備投資や固定資産の取得に費やしたお金の支出や固定資産や有価証券等の売却による収入といったものに関するお金の動きを記載します。

【把握するべきこと】
④設備投資等の妥当性の確認
⑤新規事業投資等の妥当性の確認

財務収支

財務収支は、企業の資金が不足したときにどのように資金調達を行い、どのように返済したかを記載します。主に金融機関からの借入と返済が記載されることになります。

【把握するべきこと】
⑥金融機関等からの借入(資金調達)の妥当性・タイミング
⑦金融機関等への元金返済の妥当性・タイミング

資金繰り表から把握しなければならない最も重要なことは、資金繰りが順調に回っているか否かです。手元の資金の状況(フロー=動きとストック=残高)を適時適正に把握し、資金に余裕があれば新規投資等その使い途を検討することができますし、資金が枯渇する可能性が高い場合には資金調達の方法をタイムリーに決定しなければなりません。

資金繰り表により適時適正な資金管理ができていれば、先に述べた事例のように「慌てて金融機関に資金手当てを依頼する。」「条件変更をお願いする。」といったことは未然に防ぐことができると思われます。

資金繰り表の雛形は、「社長の管理会計道」のHPにいくつか例示されていますので、それをご覧いただければよいと思います。

参考までに「ベーシックな資金繰り表」を掲示しておきます。

ベーシックな資金繰り表

ベーシックな資金繰り表

資金繰り表を作成するメリット

資金繰り表を作成している場合としていない場合の違いをまとめてみます。

資金繰り表を作成している 資金繰り表を作成していない
対金融機関 経営の透明性が高いと評価
企業実態を動態的に捉えることが可能
実態把握が容易
(金融機関の安心感が高まる)
稟議がスピーディになる可能性大
経営の透明性が低いと評価
企業実態を動態的に捉えることが難しい
実態把握が困難
(金融機関の警戒感が高まる)
稟議に時間を要する可能性大
自社内 資金繰りが見えるため適時適正な資金管理が可能
資金繰りを心配することなく営業等のフロント業務に注力できる
資金繰りが見えないため資金不足のリスクが高まる
常に資金繰りを心配、営業等のフロント業務に専念できない

ベーシックな資金繰り表の作成手順

手順1 損益計画策定(月次)

【解説】
本来、資金繰り予定表を作成する際のベースは、損益計画です。損益計画は損益計算書(P/L)と似ています。損益計画に基づいた売上の回収、仕入、経費支払を実行した場合、資金の動きはどうなるのかを見ることが大切なのです。

手順2 売上回収条件の確認

①現金回収(日々回収)
②掛回収(月々回収)
③手形回収(手形のサイト)

【解説】
当月の売上分のうち、現金売上は何%か、翌月回収は何%か売上の回収条件によって入金時期が違ってきます。細かくなくてよいので、売上回収条件を把握し、各月の回収金額を把握します。

手順3 仕入等原価及び経費の支払条件の確認

①現金支払(日々支払)
②掛支払(月々支払)
③手形支払(手形のサイト)

【解説】
当月仕入れ分のうち、現金仕入れは何%か、翌月支払は何%か仕入の支払条件によって支払時期が違ってきます。手順2の売上の入金時期の把握と同様、支払時期を把握します。

手順4 固定費(人件費等の販売管理費等)の支払額の確認・把握

【解説】
固定費は毎月ほぼ同じ金額が支出されると思われます。固定費の支出額を把握します。

手順5 スポット支出の確認・把握

【解説】
労働保険の支払、固定資産税の支払等、支払月がスポットで決まっているものを把握します。

手順1から手順5で把握した金額を資金繰り予定の所定の欄に入力すれば、資金繰り予定表が作成できます。

経営計画⇒資金計画

経営計画

今回のテーマの最後に、経営計画の策定、それを基にした資金計画の策定について説明します。
社長の会社では、毎期経営計画(事業計画)を策定されているのでしょうか。会社を立ち上げ、従業員を雇用し、お客様や取引先を確保し、ゴーイング・コンサーン(倒産することなく永遠に事業継続する意)を前提に持続可能な経営を続けるためには、経営計画(次号計画)の策定はMUSTです。

経営計画が策定されていない行き当たりばったり的、あるいは「どんぶり勘定」の経営では、ゴールが見えず、適正な収益をあげているのか、資金繰りは大丈夫なのかといったことを把握できないばかりでなく、現代の成熟化した社会の中では、日々刻々と加速して変化する経営環境に適応できません。

ステークホルダーに対してコミットメントし、従業員にも社長の熱意を伝えて、一丸となって会社の発展に寄与してもらうためにも経営計画の策定は必要なのです。

資金計画

経営計画のなかで数値計画にあたる損益計画は、財務諸表のうちの損益計算書とほぼ同じ形式の表で作成します。

損益計画では、会社の売上計画、利益計画等を策定することが目的になりますが、目的を達成するためには、「お金」がなければ実行に移せません。そこで、損益計画とは別に資金計画(資金繰り計画表)を策定し、損益計画で策定した数字をお金の動きに落とし込むことが必要です。損益計画上の利益と、会社の資金繰りとは、一致しないからです。利益はプラスなのに、資金が回らず、手許にお金がないということはよくあることです。損益計画上は黒字であったとしても、一時的にでも資金不足に陥れば、人件費や仕入れ等の経費の支払いや銀行返済等ができなくなり、会社は潰れてしまいます。

まとめ

  • 「損益管理」と「資金管理」は区別して行う必要がある。
  • 「数字=損益」と「お金」の動きは違う。
  • 「貸借対照表」と「損益計算書」では、お金の動きは把握できない。
  • お金の動きを把握するためには、「資金繰り表」が必須
  • 資金繰り表を作ったら、資金繰り表を使いこなせ!!
  • 毎期、経営計画を策定しよう。

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